Se connecter髪を整え、メイクもばっちり決めて……
「よし、出来上がり。今日は初日なんだから、気合い入れていこう」 パシパシと頬を叩き、気合いを入れなおした。 最寄りの駅から7つ先の駅まで地下鉄で向かう。たぶん始めは、地下鉄って複雑だしジョン一人だと迷うと思ったんだけど、昨日も行ったばかりだから大丈夫だと思ってジョンとは別に家を出てきた。
それなんだけど……
「麻ー菜ー!」 朝から元気すぎるわたしの名を叫ぶ声を聞いたと思ったら、突然思い切り抱きつかれた。もちろん抱きついたのが誰かなんて、顔を見なくても分かる。
「ちょっと、ジョン!何するのよ!離れなさい!」「え~?いいじゃん。僕と麻菜の仲なんだし」
「どんな仲よ。朝から暑苦しいったらありゃしない」
ベットリわたしに抱きつくジョンを冷めた目で見つめながら、ベリッとその絡まる腕を剥がした。全く……朝から面倒くさい人。
「麻菜、僕への扱いが年々ひどくなってるよね」「アンタの扱いはこれくらいでちょうどいいのよ」
「ひでー。さっきだって、せっかく一緒に出勤しようと思って待ってたのに、先に行っちゃうし」
いじけたような表情を浮かべて、じーっとわたしを上目遣いで見つめてくる。きっとこういうところなんだろうな。
女の子たちがジョンに堕ちる理由は、こういう母性本能をくすぐるところにあるのかもしれない。
わたしより年上なのに、子供っぽくて守ってあげたくなるような……
そんなジョンだから、何処に行ってもモテるんだと思う。
わたしは全然……何も感じないけど。
ジョンには悪いけどね。
「なんで一緒に出勤しないといけないのよ。どっちみち会社で一緒なんだから、いいじゃない」
「え~?僕は出勤時だってずっと一緒にいたい」
「わたしはいたくない」
「まあまあ、そう言わずに、ね?ということで、これからは一緒に行こう」
何が「ということで」よ!!
誰も一緒に行くなんて言ってないじゃない。
全く、ジョンったら……いつもいつも自分勝手で何でもかんでもわたしの意見は無視なんだから。
こういう時は、放っておくのが一番。ジョンとの長い付き合いで、これが学んだ教訓だ。
「あっ、それからジョン?」「なに?」
「職場ではわたしのこと“麻菜”じゃなくて、“加藤”って呼びなさいね」
「え~!?なんでよ?いいじゃん、“麻菜”でも」
子供のように駄々をこねるジョンに、わたしは彼に吐いた何度目か分からない溜息を吐いた。 地下鉄の中で、周りの人たちは「異様なカップル」というような目でわたしたちをちらちら見ていた。彼女に駄々をこねて困らせるダメ彼氏とそんな彼氏を冷静にかわす冷たい彼女。
きっと周りの人たちはこう考えていることだろう。
でも、わたしたちは決して恋人同士ではないから、そこは声を大にして言いたい。
「仕事なのよ。そこら辺の分別はつけてくださいね。わたしの上司でもあるんですから」「……分かりましたよ。“加藤さん”」
こいつ……嫌味ったらしく「加藤さん」の部分を強調した。仕事とプライベート、わたしは公私混同はしないタイプ。
この男はこの考えを持ち合わせていないようだけれど……
地下鉄に乗り、5つ目の駅に到着すると、一気に人が駆け込んできてすし詰め状態となってしまった。この人並みに逆らうことが出来ず、あっという間に押され隅に追いやられた。
そして、目の前には50代くらいの禿げたオジサン。なんか、さっきからニヤニヤ顔でこっちを見てくるんだけど……
鼻息荒いし、妙に近い距離間。
しかもオジサンの腕がわたしの胸に当たってる!!
「麻菜、こっちおいで」 器用にわたしと立ち位置を変わったジョンは、オジサンから守るようにわたしとオジサンの間に立つ。しかも周りに押し潰されないように、わたしの肩に手を乗せたままのジョン。
もしかして……守ってくれてるの?
たまにこうやって男らしいところを見せるから、それが逆に心臓に悪い。不覚にもそんな彼に一瞬ドキッとしてしまった。
ようやく降りる駅に到着し、人並みに乗って地下鉄を降りた。 「ジョン、もういいから手を離して」 地下鉄を降りても一向に手を離す気がなさそうなジョンに文句を言ってみる。 「……それより麻菜。僕に何か言うことないの?」「言うことって……何をよ?」
「僕、せっかく助けてあげたんだけどなぁ。さっきのオジサンから」
早くと急かすように、目力のあるその瞳で要求してくる。 「……さっきは助かったわ」「素直にありがとうって言えば可愛いのに」
「どうせわたしは可愛くありません」
フンとわたしはそのまま改札口へと向かった。それなのに、ジョンはクスクス笑いながらわたしを追いかけてきて。
「あれー?拗ねちゃった?でも、素直じゃない麻菜も可愛いよ~!!」 こんなことを叫びながら、思い切りまた抱きついてこようとするジョン。わたしはそれを両手を前にいっぱい伸ばして、寸前で食い止めた。
「それ以上近づくな!それにわたしは可愛くない!」「あっ、僕を置いてくなって~!」
逃げる私に、それを追いかけるジョン。朝からしないでもいい体力消費をしてしまった……
「せっかくの3連休だったのに……」ふと不満を漏らすと、隣から必死に謝罪の言葉が並べられた。「ごめん!ほんと、ごめんって!」車の運転をしながら、わたしに必死に頭を下げているのは秀ちゃん。どうしてこんなことになったのかというと、秀ちゃんの寝坊が原因だ。朝が弱い秀ちゃんのことだから、寝坊なんてよくあることなんだけど、よりにもよって、今日まで寝坊しなくてもよかったのに。だって、今日は秀ちゃんとずっと約束していた旅行に行く日だったのだから。「麻菜、ほんと、ごめんって!」今日の秀ちゃんは謝ってばかりだ。「もういいって、秀ちゃん。わたしも悪かったし」「いやいや、こんな大事な日に俺が寝坊なんてしなければ」「でも、わたしが道に迷わなければ、こんなところに来なかったわけだし」そう、目的地は大阪のはずだった。本当は。でも、現在地、なぜか奈良県。「ぷっ……くくっ……確かに」秀ちゃんが笑うのも当然だ。大阪に行くはずが、奈良県に着てしまったのだから。わたしのナビのせいで。「ははっ!ケータイのナビでどうやったら、奈良に来るんだよ」「そんなに笑わなくても……」「だってさ、くくっ……」「もう!そんなに笑うんなら、秀ちゃんがナビ見ればよかったじゃない!」「運転しながらケータイ見れないし、しかもそれで迷うなんて思ってもみなかったしな」いまだに笑っている秀ちゃんに、少しムッとした。わたしだって、迷いたくて迷ったわけじゃないのに!
「そうなのよー、村田ちゃん!この二人ね、高校時代も付き合ってたらしいんだけど、その時についたあだ名が“癒し系カップル”なんだって」「確かに、今の笑い合ってる姿見たら、そう呼ばれてたの分かる気がします!」「でしょー?見てると、こっちがほのぼのした気持ちになるから不思議よねぇ」幸さんと村田ちゃんの会話。それが、高校時代の記憶を再び蘇らせた。“癒し系カップル”まさか大人になっても、そう呼ばれるなんて思ってもみなかったけど……こう呼ばれるのは嫌いじゃない。「仲森さんって、麻菜さんの前ではデレデレしてますよね」「そうよー、村田ちゃん、知らなかったの?麻菜ちゃんの前の秀平ったら、もうデレッデレで困っちゃうのよー」幸さんの言葉に秀ちゃんの視線が鋭くなった気がしたけど、放っておこう。もう半分くらいは機嫌悪くなってるはずだから。「しかもさっき、麻菜さんと休み被せてましたよね?」「きっと、何かあるわよね」ジッと見つめる二人に、秀ちゃんはわざとらしく溜息をもらした。これじゃあ、何のための飲み会だったか分からなくなりそうだ。いつの間にか、わたしと秀ちゃんの話題ばかりになっていたから。「はぁー、麻菜と旅行行く約束してんだよ」これで満足かと言わんばかりに、面倒くさそうに答えた秀ちゃん。面倒くさそうにしてても、結局は教えてあげるのね。「旅行ー!?麻菜ちゃん、いいわねー!」幸さんが羨ましそうに、目を輝かせている。「高校生の時、旅行行きたいねって話してて。秀ちゃん、それを叶えてくれるって……」照れながらも幸さんにこう言うと、よかったねと微笑んでく
「かんぱーい!」店長の気まぐれで急きょ開かれた飲み会。メンバーは店長、幸さん、ジョン、村田ちゃん、それから、秀ちゃんとわたしの6人。たまたま残っていた人たちを、店長が飲み会に誘ったため、こんな異様なメンバーでの飲み会となった。「今日は店長の奢りよ!ジャンジャン飲みましょー!」何故か一番盛り上がっているのは幸さんで、いつも以上のノリの良さで、わたしにビールを注いでくれた。って、幸さん。わたし、そんなに飲めませんって……言っても、今の幸さんには聞き入れてもらえなさそうだ。「おいおい、今日は割り勘でいこうぜ」店長が誘ったから、わたしもてっきり店長が奢ってくれるのかと思ったけど。どうやら、店長にはその気がないらしい。「何言ってるんですか、店長!店長が誘ったんだから、店長の奢りでしょーよ!しかも上司だし!」「そりゃないって……今日、そんな持ち合わせてないんだよ」「それならそこにコンビニありますから、下ろしてきてもいいんですよー?」いつものことながら、強引な幸さんに店長もタジタジだ。この様子だと、店長の奢りになっちゃいそうだな。「お、おい、仲森。ここは公平に二人で割り勘するか」何故か、ここにきて秀ちゃんに話題を振る店長。「何が公平なんですか。嫌ですよ。それに俺だって今持ち合わせてないですから」「そ、そこを何とか頼むって」「何でですか……嫌なものは……って、あっ」何かを閃いたような秀ちゃんは、ちらっとわたしを見ると、小さく笑った。秀ちゃん……?「店
わたしと秀ちゃんが付き合っているということが、あっという間に職場に伝わって、すっかり公認の中になったわたしたち。そんな中よく聞く噂が、『仲森さんって雰囲気変わったらしいよ』この噂と同時に、何故か同じようなわたしの噂も広まっていた。わたしたちの雰囲気、印象が変わったという噂が、職場に広まったのは、わたしたちが付き合うようになってからだ。「麻菜さんって雰囲気変わりましたよね」「いきなりどうしたの?村田ちゃん」また聞いた、このセリフ。この前、ジョンに声をかけていたぽっちゃりした女の子。村田ちゃんもわたしの雰囲気が変わったと言うのだ。「最近すっごく思うことなんですもん。麻菜さん、変わったなって」「そんなにわたし、変わった?」「はい、すっごく印象変わってますよ!」村田ちゃんは『すっごく』という言葉が好きみたい。この短い会話の中で、もう2回もその言葉を使っている。「なんだか、すっごく、柔らかくなったというか……話しやすくなったというか」また『すっごく』って……ふふ、村田ちゃん、可愛いなぁ。「わたし、話しやすくなった感じがするの?」「はい!すっごく!前は何だか、すっごく近寄りがたい感じがしてたんですけど」「って、村田ちゃんの、わたしの前の印象どんなよ?」「えっ、えっ!いやっ、あのっ!決して、近寄りがたい鬼ハーフさんだとは思ってません!」『近寄りがたい鬼ハーフ』って……わたしって、そんな風に思われてたのか。「村田ちゃんって、嘘吐けないのね」わたしが少し落ち込んだように言うと、彼女は慌てたように言った。
秀ちゃんとまた付き合うことになってすぐに。わたしの生活は大きく変わろうとしていた。まず、「はよ……麻菜」秀ちゃんがこうして毎朝、部屋の前で待っていてくれること。「おはよう、秀ちゃん。今日も眠そうだね」昔から朝が弱い秀ちゃんは、いつもいつも眠そうな顔でわたしを待っている。ほら今も。「ふわぁ……ねむっ」大きなあくびを一つと、まだ完全に開ききっていない瞳。「ふふっ、かわいいかも」こんな彼の姿を見るたびにそう思う。「……なにか言った?」「ふふっ、ううん、何でもない」「ふーん……じゃあ、行くか……」まだ眠そうな秀ちゃんの隣で、一緒にこれから出勤。「今日、日中はかなりの暑さになるらしいよ、秀ちゃん」間もなく厳しい夏に突入しようという時で、電車の中もクーラーがガンガンきくようになった。わたしも扇子を常備していて、暑さ対策も万全になっていた。「うん……そっか……ふわぁ……」「……まだ眠そうだね。仕事中、寝ないでよ」「それは大丈夫……会社着く頃には目覚めるから」本当かなぁと疑いの眼差しを送った。確かに毎回、仕事始まる前には目が覚めてるみたいだけど。いつか仕事中も寝ちゃうんじゃないかって、不安なのよねぇ。「やっぱりあんたたちは一緒じゃないとねぇ」間もなく会社に到着す
「この気持ちを隠しておくなんて、出来ないよぉ……っ!」我慢していた涙が、滝のように流れ出して。もう止められなかった。「え、えぇっ!?ちょっ、麻菜!?」そんなわたしを見て、慌てふためく彼に。「好き……」ついに、伝えてしまった。「麻菜……いま……」「好き!本当はずっと好きだったの」今まで我慢していたものが、一気に溢れ出てきた。「仲森さんのこと忘れたことなんてなかった!好きすぎてどうしたらいいか分からないくらいに!」一気にしゃべり過ぎたせいで、息が上がってしまって……目の前の彼も目を見開いて驚いている。「……麻菜、それ……マジ?」信じられない様子の彼に、ただコクンと頷いた。すると。「やべぇ……嬉しすぎんだけど」仲森さんの余裕のない表情。耳も赤く染まっていて、普段からは想像も出来ない反応。しかし、そんな姿をずっと見せてくれるわけではなく……次の瞬間、勢いよく抱きしめられていた。「ひゃっ!な、仲森さん!」「……やっと。やっと戻って来てくれた」「仲森さん……」痛いくらいにギュッと抱き寄せられて、ふわりと温かい優しい香りに包まれていた。ためらいながらも、背中に腕を回すと。上で彼が小さく微笑んだ気がした。「仲森さん、か…
流川さんが「これから攻める」と言ってからというもの。彼の行動は早かった。「麻菜ちゃん、今日これから飲みに行かない?」仕事が終わった頃、流川さんがやって来てわたしは誘われていた。流川さんって結構積極的……「えっと、あの……」しっかり断らないと。彼の雰囲気に流されちゃダメ。危険だと分かっているのに、どうしても断れないんだ。「
「仲良いんですね」「そうだね。高校からの付き合いだからかな」そんなに長いんだ。わたしと春菜も高校からの付き合いだから、同じくらいかな。「それに話し方も友達の前だと少し違うんですね」「あっ、やべ。素が出ちまった」しまったというような表情を浮かべた流川さん。「流川さん、猫被ってたんですか?」「猫被ってたっていうか……麻菜ちゃんに素の俺を見せたくなかったんだ」
梅雨の時期に入り、ここ数日雨が続いていた。でも、今日は珍しく太陽が顔を出している。しかも今日は日曜日で仕事もなく、一日中オフの日だった。「よし!準備オッケー」久しぶりに買い物しようと街まで出ることにした。休みと言っても仕事場近くに行くから、普段とあまり変わらないのだけれど。出かける支度を終え、外に出ると。―――ガチャちょうど隣に住むジョンも部屋から出てきたところだった。「
「日本でこれからSTAR☆というブランドが広まるかは、全てうちにかかってるということだな」あっさりこう言う仲森さんに、これは大変なことになったと思った。それなのに、こんなわたしが助っ人だなんて。もし、失敗したらわたしはどんな顔してアメリカに戻ればいいんだろう。こんな話をしていたら、いつの間にかロッカールームに到着し。どうやら仲森さんも今から帰るらしく、身支度を整えていた。「麻菜、腹空かない?飯でもどうだ?」「え&h







