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第3話 思わぬ再会①

Author: 葉山心愛
last update publish date: 2025-10-24 15:53:01

髪を整え、メイクもばっちり決めて……

「よし、出来上がり。今日は初日なんだから、気合い入れていこう」

パシパシと頬を叩き、気合いを入れなおした。

最寄りの駅から7つ先の駅まで地下鉄で向かう。

たぶん始めは、地下鉄って複雑だしジョン一人だと迷うと思ったんだけど、昨日も行ったばかりだから大丈夫だと思ってジョンとは別に家を出てきた。

それなんだけど……

「麻ー菜ー!」

朝から元気すぎるわたしの名を叫ぶ声を聞いたと思ったら、突然思い切り抱きつかれた。

もちろん抱きついたのが誰かなんて、顔を見なくても分かる。

「ちょっと、ジョン!何するのよ!離れなさい!」

「え~?いいじゃん。僕と麻菜の仲なんだし」

「どんな仲よ。朝から暑苦しいったらありゃしない」

ベットリわたしに抱きつくジョンを冷めた目で見つめながら、ベリッとその絡まる腕を剥がした。

全く……朝から面倒くさい人。

「麻菜、僕への扱いが年々ひどくなってるよね」

「アンタの扱いはこれくらいでちょうどいいのよ」

「ひでー。さっきだって、せっかく一緒に出勤しようと思って待ってたのに、先に行っちゃうし」

いじけたような表情を浮かべて、じーっとわたしを上目遣いで見つめてくる。

きっとこういうところなんだろうな。

女の子たちがジョンに堕ちる理由は、こういう母性本能をくすぐるところにあるのかもしれない。

わたしより年上なのに、子供っぽくて守ってあげたくなるような……

そんなジョンだから、何処に行ってもモテるんだと思う。

わたしは全然……何も感じないけど。

ジョンには悪いけどね。

「なんで一緒に出勤しないといけないのよ。どっちみち会社で一緒なんだから、いいじゃない」

「え~?僕は出勤時だってずっと一緒にいたい」

「わたしはいたくない」

「まあまあ、そう言わずに、ね?ということで、これからは一緒に行こう」

何が「ということで」よ!!

誰も一緒に行くなんて言ってないじゃない。

全く、ジョンったら……いつもいつも自分勝手で何でもかんでもわたしの意見は無視なんだから。

こういう時は、放っておくのが一番。

ジョンとの長い付き合いで、これが学んだ教訓だ。

「あっ、それからジョン?」

「なに?」

「職場ではわたしのこと“麻菜”じゃなくて、“加藤”って呼びなさいね」

「え~!?なんでよ?いいじゃん、“麻菜”でも」

子供のように駄々をこねるジョンに、わたしは彼に吐いた何度目か分からない溜息を吐いた。

地下鉄の中で、周りの人たちは「異様なカップル」というような目でわたしたちをちらちら見ていた。

彼女に駄々をこねて困らせるダメ彼氏とそんな彼氏を冷静にかわす冷たい彼女。

きっと周りの人たちはこう考えていることだろう。

でも、わたしたちは決して恋人同士ではないから、そこは声を大にして言いたい。

「仕事なのよ。そこら辺の分別はつけてくださいね。わたしの上司でもあるんですから」

「……分かりましたよ。“加藤さん”」

こいつ……嫌味ったらしく「加藤さん」の部分を強調した。

仕事とプライベート、わたしは公私混同はしないタイプ。

この男はこの考えを持ち合わせていないようだけれど……

地下鉄に乗り、5つ目の駅に到着すると、一気に人が駆け込んできてすし詰め状態となってしまった。

この人並みに逆らうことが出来ず、あっという間に押され隅に追いやられた。

そして、目の前には50代くらいの禿げたオジサン。

なんか、さっきからニヤニヤ顔でこっちを見てくるんだけど……

鼻息荒いし、妙に近い距離間。

しかもオジサンの腕がわたしの胸に当たってる!!

「麻菜、こっちおいで」

器用にわたしと立ち位置を変わったジョンは、オジサンから守るようにわたしとオジサンの間に立つ。

しかも周りに押し潰されないように、わたしの肩に手を乗せたままのジョン。

もしかして……守ってくれてるの?

たまにこうやって男らしいところを見せるから、それが逆に心臓に悪い。

不覚にもそんな彼に一瞬ドキッとしてしまった。

ようやく降りる駅に到着し、人並みに乗って地下鉄を降りた。

「ジョン、もういいから手を離して」

地下鉄を降りても一向に手を離す気がなさそうなジョンに文句を言ってみる。

「……それより麻菜。僕に何か言うことないの?」

「言うことって……何をよ?」

「僕、せっかく助けてあげたんだけどなぁ。さっきのオジサンから」

早くと急かすように、目力のあるその瞳で要求してくる。

「……さっきは助かったわ」

「素直にありがとうって言えば可愛いのに」

「どうせわたしは可愛くありません」

フンとわたしはそのまま改札口へと向かった。

それなのに、ジョンはクスクス笑いながらわたしを追いかけてきて。

「あれー?拗ねちゃった?でも、素直じゃない麻菜も可愛いよ~!!」

こんなことを叫びながら、思い切りまた抱きついてこようとするジョン。

わたしはそれを両手を前にいっぱい伸ばして、寸前で食い止めた。

「それ以上近づくな!それにわたしは可愛くない!」

「あっ、僕を置いてくなって~!」

逃げる私に、それを追いかけるジョン。

朝からしないでもいい体力消費をしてしまった……

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